屋根の上のサギ
不安をかき立てる
ピンポーン、ピンポーン・・・呼び出し音が
強くなる。夕方の暮色が迫っていた。辺りは
暗くなって顔の見分けも難しい。
インターホンの受話器を取る。「なんでしょ
うか?」
「何度かお訪ねしましたが留守でした。近く
の山田さんの屋根の修理をしているのですが
お宅の屋根にある鳩小屋も鉄板が剥がれて風
で飛んだりして隣の家に落ちると危ないです
よ」
鳩小屋とは換気口や配管等を収納する構造物
のことである。
「下から見て分かるんですか?」
「写真撮ってあるから見てください」
懐中電灯をもって玄関先へ行くと一人の男が
屋根を指さしてあの鳩小屋の鉄板がはがれて
落ちかかっているので強風でも吹いて隣に落
ちでもしたら危ないですよ
と言いながらスマホに写っている屋根の写真
を見せた。
その写真を見ると鳩小屋の屋根から棒状のも
のが突き出している。
懐中電灯で鳩小屋を照らしてみるがそれらし
いものは確認出来ない。
「なんでもないようだけど?」
「懐中電灯ではわかりませんよ。出入の業者
あるんですか。」
「この家を作くれた工務店に見てもらってい
る。この間、ベランダの防水シートを取り替
たが何も言ってなかったな。」
「そうですかそれならいいんですけど。裏の
方の佐藤さんの屋根の工事をしていて気がつ
いたもんだから」
と言うと車で去って行った。
山田さんから佐藤さんに変わった。
今日の話は、初めてではない。2度目である。ちょっと心配になった。
そこで、出入りの工務店に電話したらよくあるサギ営業と思いますが
見に行きます。と言ってくれた。
数日して工務店がきてくれて屋根に登って点検してくれた。
ベランダから梯子を掛けて簡単に屋根に登って鳩小屋及びその周辺を
点検してくれた。屋根から下りた工務店は、スマホの写真を2~3枚見
せて苔が生えてはいるが特に問題のあるところは見当たらない。
「ここのところこの手の話が多いです。今日もお宅にくる前一軒同
じような話で行ってきたばかりです。」
その家は、サギを屋根に登らせたため多額の請求書が届いたそうで
ある。点検したところ釘が一本打ってあるだけでなんの修繕の後も
見られなかった。
「屋根に登らせたら絶対ダメですよ」
見られないもの、見えないものは不安をかきたてる。簡単に屋根に
登ることは出来ない。
壊れた箇所を確認することは無理である。
サギは、築年数が30年以上経過しリホームが必要な家をねらって声
をかけてくる。いわゆる弱みにつけ込んで人の心を乱す。乱された
心を安定させるにはその原因を確認することである。そして、対策
を立てる。