きつねの恩返し
「二つ取水塔があるでしょう。右側の方の近くにさ、村人とキツネが一緒に住んでいたんだ」
「うそ、そんなことあるはずがないじゃん。」
「キツネを飼っていたんじゃないの?」
子供達に村山貯水池を案内して、そろそろ疲れた頃に切り出します。東大和のよもやま話です。
「貯水池になってしまった村に宅部という所がありました。今は、下貯水池の第二取水塔のあたりに原さんの家がありました。
当時はきつねやたぬきなど、この山にはたくさんいたので、きつねとりという商売の人がいました。 山ふところにあった原さんの家に親子のきつねが遊びにくるようになりました。冬の寒い日にはいろり端にきてあたっていくほどになりました。だんだん可愛くなった家の者はきつねとりに撃たれないかと心配していました。
ある雪の日、いつものように、いろり端に座っているきつねをみたおばあさんは、
「きつねとりがくるからいいかげんで身を引いておくれ」
と頼みました。きつねはわかったのか雪の中を親子で出ていってしまいました。それきり姿は見せませんでした。
山里の部落に大火事がありました。上の方から出た火で三光院も焼けてしまったのですが、幸にも原さんの家は焼けずに残りました。おばあさんは「これはきっときつねが守っってくれたのだ。きつねのおかげじゃ」と言って喜びました。
この話は、原さんが小さい頃おばあさんから伝え聞いた話なのですが、貯水池から清水に移転した時、いろりのあったところにきつねの大きな穴があったそうです。今でも家の裏に稲荷様を祀っておられます。」(p179~180)82
話の終わり頃には、結構うなずく子供達も出てきます。でも、半信半疑です。
「話の中に、大火事のことがあったでしょう。これは「宅部の大火災」って云って、江戸時代の末、弘化三年(1846)2月2日にあった出来事なんだ」
「じゃ、ホントじゃん」
「キツネを獲物にする方とキツネをそこから守ろうとする話はどう?」
「それは、わかる。」
「他にもこう云う話あるんですか?」
「うん、あるよ・・・」
というところで、次の場所へ移ります。
(2017.11.23.記)81