高木薬師堂跡(東大和市 現・薬師堂墓地)
高木薬師堂跡(現・薬師堂墓地)
円乗院の山門に向かって左側に、高木と狭山の境界でもある小径があり、沿って墓地があります。薬師堂墓地と呼ばれます。名の通り、ここに、地元では蟹峰堂(かにみねどう)と呼ぶ薬師様をおまつりする堂がありました。
江戸時代の地誌には次の通り記録されています。
『新編武蔵風土記稿』
「高木村の項に
薬師堂 字がが峯にあり、二間半に二間、本尊五寸許、木の座像十二神を左右に置り、各長八寸許り、」
『狭山之栞』
「蟹峰堂 本尊薬師如来は長五寸許り。狭山薬師三十五番にして、日光月光並に十二神あり。堂の名の起りは昔ここに蟹の形に刈込みたる柘植(つげ)の木ありしより名付けたりと。地中尾崎氏の墓あり。」
と記されます。
今は幻となった「狭山三十七薬師」の第三十五番札所でした。薬師堂は長い年月を経て老朽化が進み、取り壊(時期調査中)されました。まつられていた薬師像は円乗院に現存します。その後、昭和52年(1977)に墓地が整理され、五輪塔と墓地改修記念碑が建立されました。この記念碑からいろいろと教えられることがあります。
・この地を開いた草分けとされる尾崎、関田、小野、渡辺氏一族
・狭山三十七薬師
・両墓制
について刻んだ石碑が建立されています。貴重な資料ですので、長くなりますが引用します。
高木・薬師堂墓地「墓地改修記念碑」
「私達の先祖は源平争乱期に円乘院が開創された頃、すでに狭山丘陵の山懐に抱かれてこの地に生活を営んでおりました。
江戸幕府の初期、慶長年間、寺が後が谷戸上の屋敷から現在の愛宕山に移った以後、尾崎 関田 小野 渡辺氏の一族十七戸に依り境外墓地をこの地に設け、爾来四百年の星霜が移り変わりました。
敬仏崇祖の念極めて篤く、一堂を建立し、薬師如来(身丈五寸程)を本尊とし、日光仏、月光仏、共に十二神将を安置して、狭山薬師第三十五番の札所としての信仰が極めて深く、祖先の祀りをたやさず、両墓形式に依って、墳墓地を東面して上段に、その前に埋葬場所を設けました。
永い人生が終わるとこの地に葬られ、土に帰りみ仏となって私共を見守って下さったのです。墓地の中央に大きな柘植の木があり、その形が蟹の姿によく似て仕立てられていたので、人呼んで蟹峰堂と呼ばれておりました。
この薬師堂墓地を中心に、隣保共助の精神の下、栄枯盛衰を世のならいとしながら、ひたすら生業に励んでまいりました。
明治の初期、土地の登録をする制度に際し、この墓地は尾崎甚右衛門他十六名の共有地として登録され、現在に至っております。その後、一族の家運大いに振って、人口が次第に多くなったので、昭和三十一年、地主の協力を仰ぎ、西側に約百六十坪の墓地を拡張致しました。
この度、施主一同が相集まって協議の結果、従来、埋葬地に使用していた土地を改修墓地として活用し、併せて環境整備を行って、永く先祖を偲び、一族の繁栄を願うことになりました。九月十八日一同の手に依り、先祖のお遺骨を収集して浄め、多摩火葬場において荼毘に付して供養を行いました。
茲(ここ)に浄財をもって五輪供養塔を建立し、先祖のみ霊をお祀りして、これから後、私ども子孫を温く見守って御加護を頂くことになりました。
ここに、これまでの経過を記し、私達一同祖先の遺徳を継承して、各々その分を守り、業務に精励して世のため人の為精進を積み重ねたいと思います。
昭和五十二年十二月八日
薬師堂墓地施主一同」
円乘院は、第一世の法印賢誉が平治元年(1159)2月8日に亡くなったことが伝えられます。高木地域の人々もこの時期に活動をしていたと刻んでいます。
また、両墓制の名残を現在の制度へ移行した姿が丁寧に記されています。
そして、ほとんど忘れられようとしている狭山丘陵を巡る薬師信仰について、思いを新たにさせます。
参考までに、狭山三十七薬師は東京都武蔵村山市中藤一丁目・真福寺を一番として狭山丘陵を西に廻り、瑞穂町、埼玉県入間市、所沢市の各所を経て東村山市の石薬師を三十二番として東大和市内に入ります。
三十三番西楽庵(上宅部 村山貯水池に沈む)
三十四番円乗院(狭山)
三十五番高木薬師堂
三十六番慶性院(旧地・石川、現在は芋窪六丁目1353番地 薬師堂が現存)
三十七番蓮華寺(旧地・下石川、現在は芋窪三丁目1603番地)、一番の真福寺へと一巡しました。
三十六番慶性院、三十七番蓮華寺はいずれも村山貯水池に沈んだ地域にありました。従って、順路は、村山下貯水池堰堤に近い取水塔の近くにあった三十三番西楽庵から狭山の峰を経て高木薬師堂に至り、再度、狭山の峰を越えて石川の谷に向かったことがわかります。石川の地から移転した慶性院には現在も薬師堂が再建され、薬師様がまつられています。
碑は、個人墓の中に五輪塔を中心とする一角が築かれ、五輪塔の左側にあります。柘植の木を目標に、ご配慮の上お参りくださるようご案内いたします。
(2019.05.07.記 文責・安島喜一)